【書評】『世界の取扱説明書――理解する/予測する/行動する/保護する』| 30年後の未来、2050年の世界像
どうも。シャオです。
今回はジャック・アタリ氏の『世界の取扱説明書――理解する/予測する/行動する/保護する』を紹介します。
ジャック・アタリ氏について
まずはジャック・アタリ氏について簡単な説明です。
- 1943年アルジェリア生まれ。
- フランス国立行政学院(FNA)卒業。
- 81年フランソワ・ミッテラン大統領顧問。
- 91年欧州復興開発銀行初代総統。
と、要職を歴任された方です。
「ヨーロッパの頭脳」と云われており、
ソ連崩壊や、2016年のアメリカ大統領選挙におけるトランプ氏の勝利などを的中させました。
筆者は2008年出版の『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界 』を遅まきながら最近読み、
書かれている2025年までの世界情勢が、
6〜7割ほど的中していることに驚愕しました。
『21世紀の歴史 』読了後、『世界の取扱説明書』を続けて読み、
今回簡単にですが要約いたしました。
アタリ氏は今後30年間において、
私達は3つの袋小路(問題)に陥ると予測しています。
また、それらがキッカケ(原因)で
気候、超紛争、人工化という3つの致命的な脅威に直面することになるだろうと。
ウクライナとロシア。
イスラエルとパレスチナ。
最近の世界情勢に不安な方も多いと思います。
そんな方々の今後生きていく上での予備知識になれば幸いです。
もくじ
第一の袋小路
まずは2050年の世界像について(内容が多いので箇条書きになります)。
人口の中位仮説によると、世界の人口は95億人に達する(アフリカは25億人、インドは17億人)。
ナイジェリアの人口はアメリカを超え、トルコはロシアの人口を超える。
出生数では、アフリカはアジアを超える。
世界の合計人口特殊出生率は2・5から2・2へと減少する(国、地域によってばらつきはある)。
世界の平均寿命は72歳から77歳へと延びるが、欧米では短くなる。
人類の6人に1人は65歳以上になり、80歳以上の人口は3倍になる。
平均年齢は、アフリカが17歳、ヨーロッパが42歳になる。
世界人口の3分の2以上が都市部で暮らす(2023年時点55%)。
人口1000万人以上の都市の数は50都市になる(2022年時点29)。
世界の都市部の人口増の3分の1は、インド、中国、ナイジェリアにおいて。
都市開発の影響で1人あたりの耕作可能な土地の面積は、20%ほど減少する。
GDPの80%以上が都市部で開発される。
移民人口はおよそ4億人(世界人口の4.2%くらい)。
話者人口の多い言語は、ヒンディー語、北京語、スペイン語、英語、アラビア語、フランス語になる(ただし話される言語の数は減少する)。
苦痛をともなう作業は、音声で命令できるロボットがこなす。
数多くの作業(トラクター、トラック、自家用車、電車、飛行機の操作)は、機械によって行われる。
2050年に存在するだろう職業の少なくとも80%は、2023年には存在しない。
人工知能の活用により、アメリカとヨーロッパの雇用の4分の1に相当する数億人の雇用は消失する。
地球の表面温度は、4度から7度(摂氏)上昇する恐れがある。
以上、割愛した内容も多いですが、これらがアタリ氏の2050年の世界像です。
しかし、重要なのはこれらが実現する前に、未曾有の金融危機が発生する。
アタリ氏はそう予測します。
第二の袋小路
商秩序(経済)の中心都市は9回の移り変わりがありました。
ブルージュ(ベルギー)から始まり、
ブルージュ→ヴェネツィア(イタリア)→アントワープ(ドイツ)→ジェノヴァ(イタリア)→アムステルダム→ロンドン→ボストン→ニューヨーク→ロサンゼルス
と、現在のロサンゼルスに至ります。
アメリカ
アメリカはボストン→ニューヨーク→ロサンゼルスと3回も中心都市であり続けたが、4回目はどうなるか分からない。
アメリカは、環境、宗教、社会、民族、政治などの面で深刻な問題に直面する。
武器と薬物の使用が増え、治安が極度に悪化する。
また教育と医療の利用面での不平等、
社会的少数派の排除、
地域間格差、
地域間(西海岸、中部、東海岸)のイデオロギー面での分断、
政治制度面での不平等などが原因になり、
一部のアメリカ人は、国の分割や非民主的政治の確立といったアイディアを唱え始める。
結論として、アメリカは国内に問題が山積し、世界の警察官であることを断念せざるをえなくなる。
よって敵がおよぼす直接的な脅威にしか、対応しなくなる。
中国
中国は、現在の経済成長率を維持すれば、2050年には世界第1位の経済大国になっているだろう。
1人当たりの所得は、ほぼ3倍になっている。
しかし2050年に中国が世界の経済と政治の中心地にはならないだろう。
今後、中国の人口動態は破滅的な状況に陥る。
人口が急減し、労働力不足が深刻化する。
中国は、豊かになる前に高齢化する。
また、中国は非常に深刻な環境問題に見舞われる。
大気汚染にさらされ、
干ばつの影響により、内陸部の平原などは砂漠化する恐れがある。
上海などの一部の都市部では、水位が60センチメートルくらい上昇するだろう。
そしてアメリカは、中国が世界最強の国になるのを阻止するためにあらゆる手段を講じるはずだ。
中国が軍事力をつける前に軍事的に叩き潰すことまでやってのけるに違いない。
インド
2050年のインドの人口は世界第一位だ(世界の人口のおよそ18%に相当する17億人)。
インドの人口に占める若年層の割合は非常に高い(25歳未満が国民の40%、25歳から50歳が37%、65歳以上はわずか15%)
インドは世界第2位の経済大国になる。
しかし、インドの道のりは前途多難だ。
第一に、蔓延する汚職がインドの発展と脆弱な民主主義の弊害になる。
さらには、何の対策も施さないと、
インドは気候変動から壊滅的な被害に遭い、期待される経済成長にも疑問符がつくだろう。
ヒマラヤの雪解けにより、大きな河川の氾濫は、今日よりも頻繁に起こる。
主要都市(ムンバイ、チェンナイ、コルカタ、ヴァーラーナシー、バーヴナガル、コーチ)、そして沿岸部の州では、洪水による深刻な被害が発生する。
その一方で、人口の少なくとも40%は水不足に悩まされる。
さらに、中国は強敵インドの発展を阻止するために手段を選ばない一方で、
インドも中国政府の影響力を制限するために様々な措置を講ずる。
一例として、インド政府は国内での中国のSNS「ティックトック」の利用を禁止した。
中国とインドという、将来の超大国同士が激突する恐れもある。
他方、アメリカは両国を弱体化させようと尽力するだろう。
日本
日本は将来的に核保有国になるはずだ。
2050年の人口は1億400万人くらいになる(2023年はおよそ1億2300億人)。
65歳以上の割合の人口は人口の37.5%。
80歳以上は15.7%。
20歳未満はわずか23.2%だ。
現役世代の人口は、およそ3分の1に減る。
日本のGDPの成長率は低下し、1人当たりのGDPは、世界26位まで低迷するだろう。
また、気候変動の影響を被ることは間違いない。
韓国
韓国の1人当たりの生活水準は、世界第1位だろう(北朝鮮と統一することがなければ。統一の場合新生韓国は第8位だろう)
10番目の中心地はどこになるのか。
過去1000年間の状況とは異なり、商秩序はきわめて強力になり、テクノロジーはノマド化し、
地理的に決められる政治力では、商秩序を制御、指導、規制できなくなった。
一国の軍隊だけでは、世界中の海、陸、空間、デジタル・ネットワーク、人々の心、反乱を取締ることができなくなった。
一国の金融セクターや通貨では、世界市場を制御することができなくなった。
2050年になる前に、商秩序は生き残りを懸けて中心地のない状況をつくり出そうとするに違いない。
第三の袋小路
歴史を振り返ると、
西ローマ帝国崩壊後、中心地がない状態で600年間帝国秩序が存続した後、商秩序へと移行した。
今後の30年間は中心地のない状態になるのではないか。
商売は中心地なしで長期的に機能すること。
そして資本主義には世界を統一するための帝国的な国がもう必要でないことが判明するだろう。
新たなテクノロジーを駆使することにより、より多くのデータ、価格、財を、分散的かつ物理的な拠点なしに管理できるようになる。
よって、新たな中心地(10番目の中心地)を生み出す必要がなくなる。
どの国も何の権力も持たない状態へと移行する。
中心地のない状態では、人間はおもに3つのカテゴリーに分類される。
ハイパーノマド(富裕層)、定住型の中産階級、下層ノマド(貧困層)だ。
第1の脅威ー気候変動
早急に大型の対策を打ち出さなければ、気候変動によって、人類は地球のほとんどの地域で生活できなくなる。
第2の脅威ー超紛争
水資源、食糧、一次産品、富の公正な分配、領土の拡大、分離独立、世界からの孤立、世界の征服、信仰の押し付け、異なる信仰との対立、価値観の確立、外国人あるいは自国人の追放をめぐる戦いが起こる。
社会制度の崩壊(とくにアフリカと中東)により、上位中産階級を除き、非識字率が上昇する。
その結果、多くの国では、宗教が権力を握る。
女子だけでなく男子も、宗教教育しか受けられなくなる。
彼らは、洗脳された後に戦士にさせられ、異教徒を抹殺し、信仰心のない者たちが暮らす土地を武力で征服しようとする。
多くの地域では、民間、国、国際機関の民兵による軍事独裁政権が、悪党や世界の濁流から地域住民を保護するという口実で、地域の富の支配権を握る。
いつものように、こうした蛮行のおもな犠牲者は、女性と子供だ。
中心地の地位をめぐる争いによって、既存の紛争が激化する恐れがある。
たとえば、
ロシアとウクライナ、
アフリカの角(アフリカ大陸東端の半島)、
湾岸諸国などで進行中の紛争だ。
またしても、これらの紛争で真っ先に犠牲になるのは、女性と子どもだ。
これらのほとんどの紛争には、アメリカ、中国、ロシア、EUが関与することになる。
しかしながら、民主主義国同士が戦火を交える可能性は、依然として低い。
そして、誰も反対することができないまま、多くの国が核兵器を保有することになる。
核保有国が増えれば増えるほど、当然ながら核兵器が利用されるリスクは高まる。
第3の脅威ー人工化
歴史の転換期ごとに新たな人工物が開発され、人間はさらなる手段を得てきた。
人間は、自然、動物、植物、そして人間自身が人工化される段階まで辿り着いた。
もし人間が人工化されるなら、人類は、人工物を製造する人工物の集合体になるだろう。
このような人工化は、当初は他愛のない形で現れる。
つまり、経済の生産性を高め、サービスのコストを削減するためだ。
だがその後、きわめて侵襲的になるだろう。
健康管理の人工化
まずは、診断、予防、治療、痛みの緩和を可能にする技術が広まる。
自己監視によって、誰もが自身の健康を、さらに多くの側面から常時監視できるようになる。
人工知能を用いる遠隔医療が可能になり、誰もがどこでも待たされることなく診断および治療を受けられるようになる。
遺伝子操作は、急速な発展を遂げる。
各々のゲノム情報を読み解くことによって、その人の健康リスクを正確に予測し、個別の予防策を講じることが可能になる。
心疾患などの慢性疾患の治療法が開発される。
老化の生物学的な解明が進み、行動規範の遵守を課すことによって、老化を止めることはできなくても、遅らせることは可能になる。
遺伝性疾患のリスクをなくすという名目で、生殖細胞の遺伝的改変が始まる。
移植手術のための臓器を確保するという名目で、遺伝的に新たな哺乳類が開発される。
究極的には、神経ネットワークに関する新たな知見を利用して、脳の人工化が試みられる。
アルツハイマー型認知症などの神経変性疾患の治療だが、
次第に人間に近い脳をロボットに搭載し、
さらには、従順な人間を製造することになる。
このようにして人類はハイブリッド型のキマイラへの道筋を歩みことになる。
クローン人間の製造も視野に入る。
自分の意識をクローン人間に植え付けることも、可能になるだろう。
欲望、少なくとも悪事に対する欲望のない人間の製造が試みられる。
それとも無慈悲な殺人鬼が作り出されるのかもしれない。
教育の人工化
記憶力を高めるために脳に人工物を埋め込む時代が訪れる。
脳の計算能力を高めて自意識を把握するという口実のもと、
脳のデジテル・コピー版が開発される。
こうして、脳と人工物のハイブリッド型知性の時代が訪れる。
情報の人工化
Chat GPTのヴァージョンが25になるころには、作家、ジャーナリスト、哲学者には、たいした仕事が残されていないだろう。
人間関係の人工化
人間関係にヴァーチャルなものが入り込んだのは、
郵便によって長距離コミュニケーションが始まったときからだ。
今日、ヴァーチャルなコミュニケーションにより、あらゆる人間関係が可能になった。
ホログラムを使うようになると、人間関係のこうした選択はさらに極端になる。
ホログラムは人間の会議に出席し、人間に代わって判断をくだす。
ロボットが人間を雇うようになる。
権力の人工化
いつの時代も、服従と引き換えに安全を提供する者が権力を握る。
これまでに紹介した人工化は、権力の人工化のための準備だ。
情報開示が義務になり、身元、履歴、健康状態、学歴、職歴を隠そうとする者は、先験的に疑わしい人物と見なされる。
実際に犯罪を実行する前であっても、危険人物として扱われる。
権力のおもな特性は予測することであるため、世界を支配するのは予測マシーンになる。
現実とヴァーチャルの融合
量子コンピュータの開発により、現実とヴァーチャルの融合は今日よりもはるかに早くできるようになり、両者を区別することは、ますます困難になる。
ホログラムやメタヴァースの現実味は、さらに増す。
最終的には、現実は、ヴァーチャルと人工物の誘惑、威力、信頼性と比べ、偽物とみなされるようになる。
生物と人工物の融合
生物そのものが徐々に人工化される。
まず、機械式のロボットが飛躍的に進歩し、人間の行動を身体的にも心理的にも模倣するようになる。
人間が女性の体外で製造されるようになると、男女の区分が曖昧になり、無数の亜種が登場される。
ペット、家族、歴史上の人物は、それらに関する情報を基に、まずはホログラム、次に遺伝子操作によって蘇る。
1975年のアシロマ会議や1997年のオビエド条約によって生殖細胞の遺伝的改変が禁止されているにもかかわらず、
誰でも自己修復ができるようになり、自分のコピーをつくる。
次に、遺伝性疾患の遺伝を避ける、
あるいは生まれてくる子供の身体的な特徴を選択するという口実のもと、
ヒト胚の遺伝情報の改変が行われる。
さらに、子供は自然な生殖過程を一切経ずに母体外で誕生するようになる。
そうなれば、人間は単なる人工物にすぎなくなる。
こうした状況は、単なる妄想ではない。
まとめ
これらすべては、夢物語ではない。
今回、危機にあるのは、太平洋の孤島でも、小アジアの沿岸部にある忘れ去られた町でもなく、人類全体だ。
アタリ氏曰く、
「歴史」のあらゆる側面を研究すれば、理論的に「世界の仕組み」を見出し、少なくとも
2050年くらいまでの未来予測は可能である。
と本著で述べられています。
ただし、あらゆる側面とは
人類学、民俗学、社会学、政治、文化、経済、環境、金融、人口、哲学、科学、技術すべての内容が含まれます。
これらを研究し、正しい知識を得るのは多くの人にとっては正直至難の技だと思います。
ですので私のような無学の人間は、
アタリ氏のような「ヨーロッパの頭脳」と謳われる方の知識を借りて、
今後予測される、険しい30年間を生き抜いていかなければなりません。
皆様にとっても今後の人生を生きていく上で、本記事が一助になれば幸いです。
いかがでしたでしょうか?
『世界の取扱説明書――理解する/予測する/行動する/保護する』には今記事で紹介できなかった興味深い内容がまだまだ、たくさん書かれているので、是非手に取って読んでみてください。
それでは、また。